例えばきみがいるだけで。

 非常に疲れることもある。

 非常に非日常な生活を送ることもある。

 非常に、命を狙われたりもする。

 

 

「う……ん……」

 カーテンの無い窓から朝日が差し込んで、俺の閉じられた瞳を華麗に綺麗に直撃する。有り体に身も蓋もなく言えば、眩しいんだよこの野郎。とか悪態をついても太陽殿に罪は無く、しょうがないのでゆっくりと目を開けて上半身を起こす。

「うがぁ」

 眠いあまりかわけの分からない声を出しつつ、大きく伸びをする。と、同時に玄関の扉がガチャリと開いた。

「フィシスさん、朝ですよ……って、もう起きちゃってるんですかぁ……」

「何故そんな残念そうな顔と声をする?」

「フィシスさんを起こすのが私の朝の始まりなのに……」

 いや、そんなことで朝を始められても俺は困る。つーか毎朝毎朝七時ちょうどに起こすのはやめれ。しかも休みの日まで。おかげで休日だというのに七時に起きてしまう健康人になってしまったではないか。くそう、休みと言えば昼過ぎまで惰眠を貪るのが人として正しい在り方であろう!? 否! それが正しい在り方なのだッ!!

「……なに言ってるんですか。早寝早起き、健康にも生活にもこれが一番ですよ?」

「断りなしに心を読むのはやめれといつも言ってるだろう」

「しょーがないですよ。生まれつきの能力ですし」

 彼女はそう言うと履き物を脱いで俺の部屋に上がりこむ。そしていつものように台所に立つと鼻歌交じりに料理を作り始める。ふーんふーんふ〜ん、と何処かで聞いたような鼻歌を言ってる彼女はとても嬉しそうだった。

 背中から生える純白の翼は見る者に神々しさを与え、白い肌は煌くようで、艶やかな髪は誰もが羨むほどで、神官のように質素だが清楚な服は彼女をより可憐かつ美しく見せていた。そう、それはまるで天使のよう――否、天使だ。

 そんな彼女に毎朝起こしてもらえたり、朝御飯(不味いが)を作ってもらえたりするのである。男冥利に尽きると言うかつきすぎる。これで浮き足立たないようじゃ男じゃないね、そいつは。男として在るべきものが圧倒的に足んねえ。

 当然俺だって浮き足立つね。許されるならここで行くとこまで行くよ。つか行く。

 だが、そうはいけないたった一つの事情があった。

 彼女の名は、真央・デスト・ディグラフェル。

 今年で一六歳となる、この世界きっての大魔王だった。

 

 

 この世界はアークファルナと言う。漢字で書くと『聖柩世界樹』とかわけの分からん字が当てはめられるらしいが、そんなことはどうでもいい。すぐ変わるし。

 問題なのはこの世界が、要は一般的に言う異世界と言うことだった。しかし、ここで生まれ育った俺としてみりゃ異世界ではなく、むしろ故郷である。いくら半分地球人の血が混じっていようと関係無い。となれば必然的に地球も俺の故郷となる。結果、俺はこの世界でも片手で数えるほどしかいない、地球とアークファルナをしょっちゅう行き来すると言う特殊な立場に置かれていた。

 そんなある時だった。地球から帰ってきた俺を待っていたのは、隣に引っ越してきたと言う一家の挨拶だった。

 いや、一家という言い方は間違いかもしれない。何しろ、越してきたのは可憐かつ美しくかつ可愛らしい美少女一人と、犬一匹なのだから。

 しっかし純白の羽根が生えてる有翼人とはまた珍しい。何せ有翼人自体ほぼいないのだ。いても亜人だったりする。

「あ……あの、は、初めましてっ」

「……初めまして」

 とりあえず挨拶をすると、彼女は緊張しながらもはっきりとした声で言った。

「わ、私、お隣に越してきた真央と申します。 こ、これからよろしくお願い致しますっ!」

「へぇ……越してきたんだ。なら、こちらこそ、よろしく」

 俺はそう言って軽くお辞儀をする。それから自分の名前を告げると、「それじゃ」と言って自分の部屋に戻ろうとする。が。

「……何じゃこりゃッ!?」

 思わずそんな声を上げる。何しろ俺の部屋の入り口前には、どでん! と巨大な荷物が置かれているのだ。うわ、これじゃ入れないじゃないですかッ!? そう思って真央の方を見ると――

「す、すみません……」

 顔を真っ赤にして謝っている姿があった。

 ああちくしょう。こんな美少女が謝ってたら俺如きが怒れるわけねーだろうよまったく。

 しかし、お隣に越してきたってことは、これから彼女が隣に住むわけだよな……。

 ハッ! これはもしや運命の出逢いというヤツではッ!? ヒロインが隣に越してきて、お隣さんのよしみでいろいろ手伝ってりしているうちにイベントフラグが立ってトゥルーエンドまでまっしぐらですか!? 

 ならば何故帰る俺! いやそれ以前に帰れないがそれはともかく! 第一、ここでまず真央を助けて好感度アップだ! 頑張れ俺!

「いや、いいよ。それより随分荷物があるね。良ければ手伝うよ」

「ほ、本当ですかっ!? あ、ありがとうございますっ!!」

 うっし! まずは第一段階クリア! ここで頼りになるところを見せてアピールをせねば。人間、第一印象は大事だもんな。

 俺は重そうな荷物をわざと選んで三つほど重ねて持ち上げた。うぐ、さ、さすがに重いっ……!

 しかしここで参っているようでは、好感度アップイベントが成功しない。つとめて平然な顔をして真央に訊く。

「これは、家の何処に運べばいいんだ?」

「家といっても六畳一間ですけど……、居間に置いて頂ければ、それで充分です」

「了解」

 俺はうなずくと、全力を出してフラつかないように注意しつつ、居間に運んだ。しかし、引っ越してきたばかりなのだから当然何もないはずなのに、やたらと狭く感じるのは何故だろう。って言うか俺が越してきた時も同じ事思ったなぁ。所詮ボロアパートなんてこんなもんか。

 何気にヒドイ納得の仕方をしつつ、他の荷物も同じように居間やら部屋やらに運んで行った。当然のことながら真央もやっているので時間にして二〇分も掛からずに終了した。

 ただ一つの物体を除いては。

 そう、俺の家と言うか部屋の前に陣取っている、巨大、鈍重、威圧感、そんなものを感じさせる荷物だった。一体何が入っているのか非常に気になる。それ以前にこれが真央ん家に入るのかどうかがスゲエ気になる。

 だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。何せ、これを運べば俺への好感度は一気にアップ! いきなりルート確定もありうる! ……さすがにそりゃないか。

 しかし……、幾らなんでもこれは無理ではないか……?

 それでも俺が、こ、これは何処に運べばいいの? と訊こうとした瞬間、俺は唖然とした。

 真央が荷物を持っていた。

 あの、俺の部屋の前に陣取っている、あからさまに巨大かつ異常な荷物を。

 どう見たって大人が二桁はいないと持てそうの無い物体を。

 片手で。

 しかも平然と微笑まで浮かべてッ!?

 な、何者ですかあなたはッ!?

「あ!」

 俺の視線に気付いたのか、慌てた声を出して、彼女は荷物を落とす。その巨大かつ鈍重な荷物が落ちれば、床はへこむ。つーか荷物が埋まってるぞオイ。いやぁ、ここが一階で良かったと心底思ったよ。二階なら間違い無く床を突き抜けていた。

「お、重くて持てないです〜〜」

「…………」

 今度はいきなり重くて持てないとか言い出しやがった。オイ待て貴様。今軽々と平気で持ち上げていただろう。何故そんな顔を真っ赤にして踏ん張っても持ち上がらないですよ〜、的な行動をしているのですかね? 今更そんなことをやられると余計に怪しいのですが?

 やはりきみは何者ですかね?

「そ……それは……」

 へ? それは? なんでそんな言葉が? まるで俺の心の声が聞こえたみたいな言い方じゃないか? と思ったが、よく考えりゃ俺が訝しげな表情を前面に押し出しているのはすぐに分かるだろう。そりゃ今の行動を見たら誰でもこんな顔するわな。

 だがまぁ、別に俺は詮索する気なんぞねえし。まぁ、気にはなるが。

「別に俺は気にしないし、真央が持てるんなら持っちゃえば? あと、それで終わりだろ?」

「は、はい。そうですけど……」

「ならいいじゃん。真央は称号、超超超超怪力少女と言うことで」

「……そんな称号嫌です……」

 真央はそんな言葉を呟きながらも、正直にひょい、と荷物を持ち上げて家の中に入れた。

 俺は一体真央の馬鹿力を疑問に思えばいいのか、それともあからさまに入るはずのない荷物が家の中に入った事実を疑えばいいのか。まだまだ世界は謎に満ちているね。

 そんなことを思っていると、荷物を入れ終えたらしい真央が出てきた。そして、やや緊張した面持ちで言ってきた。

「あ、あの……よかったらお茶でもどうですか? その、手伝ってくれたお礼、したいですし……」

「サァ!」

 元気良く返事。一も二もなくサァ! だね。ここで断っちゃ手伝った意味がねえよな。

 それに、正直結構疲れたので、飲み物は嬉しかった。

 俺は真央と一緒に家の中に入る。すると彼女は何処からかちゃぶ台をずりずりと持ってきて居間の中央に設置した。それから湯を沸かしてお茶を持ってきてくれた。ついでに温めたミルクも持っているところも見ると、恐らく犬にだろう。

 コトン、と置いてくれたお茶をずずずずっ、と飲み干す。くぅ、いい味出してるじゃねえか嬢ちゃんよぉ。おいどんちょっと感激だぜ。

「くすっ」

 何処に笑う部分があったのかは謎だが、真央はくすりと笑っていた。ああちくしょう、もうこれ以上ないってくらい可愛いね。このまま押し倒したいくらいだ。いや、しないけど。

 と、真央が三つ指をついて俺に深深とお辞儀していた。

「手伝っていただいて、本当にありがとうございました。フィシスさん」

「いや、気にしないでいいよ。好きでやったことなんだからさ」

 本当のことだし、そんな丁寧にお礼を言われると逆に萎縮してしまう。何というか、立派な人である。まるで良家のお嬢様かなんかのようだ。素晴らしいね、なんかこれからの俺の生活が薔薇色ですか?

「…………」

 と、真央が俺の顔をじっと見ていた。……えと、なに? 俺の顔に何かついてる? それとも惚れたとか? ……馬鹿か、俺。

「……よかった。いい人みたい……」

 一体俺の顔の何処をどう見てそういった根拠が出てくるのか非常に訊きたい。

「えっと、フィシスさん。私は荷物の確認をしてきます。ゆっくりしててくださいね」

 真央はそう言い残すとぱたぱたと駆け回って荷物整理&チェックをしていた。そんな光景を微笑ましく見つめつつ、遠慮無く茶菓子を頂いている俺。

「あっ」

 と、真央が何かに気付いたらしく、そんな声を上げた。

「すみません、荷物が一つ足りないみたいなんです。まだ外に置いてあると思うので取ってきますね」

 そう言い残すとぱたぱたと外に出て行った。後に残されたのは俺と犬。甘い時間は速攻で終了した。いや、別に甘くもなかったけどさ……。

 しょうがないので真央を待つことにする。

 三分。

 十分。

 三〇分。

 一〇〇分。

 一日。

 さて何処からが嘘でしょう? 正解は三〇分まで。とか馬鹿なことはともかく、幾らなんでも遅い。荷物なんてひょいと取ってくればそれで終了じゃないか。何だか不安になった俺は外に出てみる。犬も主人が心配なのか一緒についてきていた。

「真央〜〜?」

 呼んでみるが、返事は無い。これはますますもって変だ。何故真央はここにいない? 不信感が爆発した俺は慌てて辺りを探してみる。

 と、俺のサーチシステムがキュピーン! と落ちている物体を発見した。む? ハンカチィフ? ううむ、状況的に考えて真央のだという確率が高そうだが、ならば何故ここに……? そして真央は何処に……?

 もしや……これは事件?

 むぁさか! 真央があまりに美人だから誰かが誘拐したのではッ!? って、まさかなぁ……。いやしかし……。

 妙な不安がぐるぐると渦を巻く。しかし、俺では真央が何処にいるかなんて分からない。せめて鼻、要は勘の利く奴でもいれば話は別――

 って待て! ここには文字通り鼻の利く奴がいるじゃんか!!

「おい犬!」

「ワウ!」

 俺の言葉に犬は元気良く答えた。

「お前の主人がピンチってるかもしれん! とりあえず真央の居場所を教えてくれ! きみの鼻なら分かるだろ!?」

「ワウワウ!」

「よーし! 行くんだパトラッシュ!!」

 まかせろ、といわんばかりの声を出して犬は俺を先導するように走った。俺は真央のハンカチをさりげなくポケットに突っ込んでから追いかけた。

 よし、これで返すといいつつ逢う口実が出来たぞ。

 しかしパトラッシュは探偵犬ではない。

 

 

「おっ! いい女がいるじゃねえか!! どうだ? 俺たちと遊ばねえか?」

 と、いきなり何だか悪そうな人たち十人が現れたのは私が家を出てからすぐです。荷物が見つからずに困っていた私に話しかけて来てくれて、私が荷物が見つからなくて困ってるんです。と言うと「それなら知ってるぜ」と言って案内してくれました。

 けど……こんな路地裏に荷物があるのかな?

 そんなことを思っていると――

「――っ」

 唐突にこの人たちの本性が視えた。

 うぅっ……、この人たち……チンピラだよぉ……。私ってば、どうしてこう騙されやすいんだろ……。はぁ……。こんなのでやっていけるのかなぁ……。

 そんなことを思っていると、いつの間にかチンピラの包囲網が狭まっていた。何をするのか、大体想像はつくけど、想像したくない。でも、どうしよう……! お父様もいないし……! と、慌てていると――

 こんなことを思うのは、変かもしれないけど……。

 私には、救世主が来たように思えました。

 

 

「えぇぇぇえええ海老ぞり大回転ハイジャアアアアアンプクラアアアアアアッシュッッ!!!!」

 俺は物凄い技名を叫びながらチンピラの一人に攻撃を決めていた。喰らった一名はスゲエ回転をしながら壁に突っ込み、埋まった。

「な、何だ貴様はッああああああッ!?」

 台詞の途中で犬に噛まれてた。もう一人、沈没。

「フィシスさん!? それに――」

「大丈夫か!? しかし、まさか本当にこんな状況に陥ってるとはなぁ……」

 俺はそう呟くと真央を守るような体勢を取った。犬にここまで連れてきてもらい、真央を見つけた時はやはり犬の嗅覚は凄い、と思い、真央がチンピラに囲まれてるのを確認したときは思わず「マジかよ!!」とか叫んだほどだ。

「もう大丈夫だからな」

 俺がそう言うと、彼女は「はいっ」と嬉しそうな表情を見せると俺の背後にスッ、と移動した。それは図らずとも頼りになる人の背中に隠れる少女の図となっていた。いや、そんな出逢ったばかりなのに頼られても。嬉しいけどね。

「あぁんだぁ? 貴様、俺たちの邪魔をしぼッ!?」

 お約束の台詞を聞くのはうざかったんでとりあえず一撃で沈める。あぁ、マジでウゼエ。

「な、コイツ! やっちまばあッ!?」

 お約束の台詞そのニを聞く前に同じように沈める。だからウゼエんだってばお前等。とりあえずウザサが増す前にチンピラの残り六人を沈める。沈めて簀巻きにして近くの下水に放りこんでおく。ふぅ、やっと静かになった。

「大丈夫か? 真央」

「は、はいっ。あ、ありがとうございますっ!」

 お礼を言う真央。ああ、癒されるね。さっきのチンピラとの戦闘なんてもう遥か彼方の過去のようだよ。いやぁ、お前等には感謝しねえとな。こんな顔でお礼をされるのも全てきみたちのおかげだよありがとうさようなら。二度と逢うこともないだろうが。

「しっかし、なんでこんなところに?」

 そう訊くが、それに答えたのは真央ではなかった。それ以前に俺の質問にすら答えていなかった。

「ふむ。なかなかやるではないか。どうだ、真央? コイツを手下にするというのは」

「お父様。手下だなんて失礼です。仲間って言って上げなきゃ」

「はい?」

 突然別の声が混じってきた。しかもすぐ近くから。しかし、当然ここには俺と真央の二人しかいない。チンピラ共は全員下水に流したし。一体何処にいるんだ!? それに、真央もお父様とか呼んでたみたいだし!

「ふふ、ここにいますよ」

 まるで俺の心を読んだかのようなタイミングで真央は下を指差す。

 犬。

 そこには犬しかいなかった。

 地球で言うウエルシュコーギーとか、そういう犬しかいない。

「犬しかいねえでありやがりますよ? 真央さん?」

「犬、犬、と失礼な奴だな。犬で悪いか?」

「おおぅ!? 犬が喋っていやがりますが!?」

 俺が驚愕の声を上げると、真央は満面の笑みを浮かべて――

「はい。父です」

「父ッ!?」

 父ですと!? 何ですと!? 犬か犬が父親なのかきみは!? いやしかし今確かに喋ったぞ!? 普通犬は喋らんだろ――って待て待て! それは地球での一般常識だ! ここは魔法世界アークファルナ! 魔獣とか魔族が普通に闊歩しているこの世界で犬が喋ったところで、犬が父親であるところで何を驚くことがあろうか! いやない! 反語おぉッ!!

「ちきゅう?」

 真央が疑問符を浮かべて呟いていた。

「簡単に言えば異世界だよ! って何で言葉に出してないのにそんな言葉が!?」

「え、えと、それはですねぇ……」

 しどろもどろになる真央。うーん、ここは魔法世界だと改めて認識したら何か何でもアリな気がして来た。なんか予想がついたぞ、彼女の能力に。ならば、ためす。

 ちょっと想像してみる。

 ぼんっっ!!!!

 真央の顔が真っ赤になり、倒れた。

「……なるほどねぇ」

 俺は納得の声を出す。なるほど、彼女はいわゆる精神感応者の類なのだ。端的に言っちゃえば相手の心を読める超能力者か。だからまぁ、俺が鮮明に想像したのをモロに受信してぶっ倒れたと。

 やはり予想通りあーゆーのに免疫はなかったか。

「貴様、我が娘に何を見せた……?」

 犬親父が訊いてくる。

「? あんたにはないのか? 心読み」

「勝手な名前を付けるな。それはともかく、無い。娘の生まれつき能力だ」

 何故胸を張って自慢する。て言うか犬で胸張ればそりゃこけ――あ、コケた。

 じたばたする姿は何気に愛らしかった。

 ああ駄目だ俺。男に可愛いとか使ってどうするよ。どーせなら顔を真っ赤にしたまま「私は、私はもうお嫁にいけませんっ……!」とか言ってる真央の方を見るべきだろう。つかお嫁に行けないってあんたねえ……。わたしゃそんなヒドイ想像した覚えはありませんが。

 いや、そんなことはぶっちゃけどーでもいい。問題は最初のだ。

 コイツラ何者だ?

 う〜〜〜〜〜〜ん。

 俺は十秒ほど考えて結論を出した。

 奇人。

 変人。

 化物。

 よし、関わり合いになるのやめよう。フラグ消失決定。残念だが。

「ひっ、ひどいですっ! あんまりな言い草ですよぉっ!!」

 しまった。真央は心を読めるんだっけ。

「ひどいです……。さっきは私に、あ、あんな凄いモノを……」

 そう言って再び顔を真っ赤にする。

 断っておくが俺はそんな凄いモノを想像した覚えは断じてない。確実にない。

「貴様、娘に何をしたああああああああああああああああああッッ!?」

 とりあえず犬親父の身体を掴んでチンピラと同じ下水に放りこんだ。台詞は途中から悲鳴に代わっていたし。

「……容赦ないですね……。一応私の父なんですけど……」

「安心しろ。犬は泳げる」

 根拠、それだけ。

「犬ですらないんですけどね……」

「やはり犬ではないのか」

 俺がそう言うと彼女はこっくりうなずいた。

「前魔王です」

「はい?」

 なんか今物凄く奇抜な台詞を聴いた気がする。奇妙かつ奇天烈、不可思議、摩訶不思議アドベンチャー? ってくらいに。

 俺の心を読んだのか、真央が繰り返す。

「ですから、前魔王です」

「……………………」

 犬だよ。

 どう見てもアレは犬だ。

 犬以上でも犬以下でもない。

 犬だ。

 一〇〇中一〇〇、犬。

 犬犬犬犬犬犬犬犬犬大犬犬犬犬犬犬犬いぬイヌ Dog INU!

「そ、そんな連呼しなくても……。しかも途中に『大』が混じってますし……」

「いやさすがに魔王は信じられねえ」

 俺の呟きに真央はちょっと怒ったようだ。

「ですから父は前魔王です。魔王は私です」

「ほぉ」

 適当な相槌を打ってからしばらくして……気付いた。

「魔王?」

「はい! 私が現魔王、真央・デスト・ディグラフェルですっ♪」

 そう言って嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 ちょっと待て。

 何処の世界に、純白の羽根を生やして、艶やかな髪をして、白い肌をして、清楚な格好をした魔王がいるのだ!? こんな天使のような少女が魔王なのか!? ありえるのか!?

 ……犬が前魔王ならありなのかもしんねえなあ。

 納得してる俺が嫌だ。

「順応性高いですね〜」

「心を読むな」

 真央の呟きに速攻でツッコミを入れた。しかし、魔王が越してきた? しかも隣に? なおかつ住む場所は六畳一間、トイレ共同、風呂なしのボロアパートに?

 物凄え信じらんねえ。

「でも、私の力、見ましたよね?」

 また心を読んだらしく真央がそんなことを聴いてくる。うっ! それを言われるとッ……! 確かに真央のあの馬鹿力。魔王の力だと言われると納得出来る。それに心読み。これを出来る人間はほぼいない。あの伝説の七賢者ですら出来なかったのだ。まさにこれは魔王特権?

「信じました?」

 無邪気な笑顔で俺を覗きこんでくる。ぐっ! そ、そんな笑顔で迫られるとッ……! ヤヴェ、無茶苦茶可愛いぶん、ドギマギする。うう、魔王だろうと何だろうとこんな可愛い娘が隣に住むなんて、ハッピーライフ万歳、生きてて良かったじゃねえか俺ッ!!

「あ、あの……」

 と、いきなり真央がしおらしくなっていた。ん? 何故だ? 少なくとも今の俺の思いの中に、真央をしおらしくさせるような考えはなかったと思うのですが如何なもので?

 とか思っていると、真央はいきなり顔を染めて、ぽつり、と言ってきた。

「……好きになっても……いいですか?」

「何故そおおおおなるううううううううううううううううう!!!!!???」

 俺の驚愕かつ必死な叫びはあまり効果を成さなかったらしい。真央は頬を染めたまま言う。

「だって、初めて逢ったばかりなのに、引越しの手伝いをしてくれましたし……、それに、私を助けてくれました……」

 そりゃ無論きみとのフラグを立てるためだったんだが……。

 それら全てフッ飛ばしていきなり告白イヴェントが来ましたよ? 誰だイベントラベルジャンプさせた奴は? いや、そりゃ嬉しいんだけどね。嬉しいんだけどね?

 魔王だよ?

 魔王なんだよ真央は!?

 しかし、今回は心の声なんぞ彼女は聴いちゃいなかったらしい。

「それに、何だかフィシスさんと一緒にいると、ここがどきどきしてるんです……」

 そう言って胸に手を置く。ええ、そりゃ間違い無く恋って奴ですな。誰に?

 俺にッ!?

「本当は魔王の私がこんなこと言うのは変なんですけど……、さっきのフィシスさんは、まるで私の救世主様みたいでしたっ」

 そんな頬を染めて某漫画タイトルを言われてもなぁ。なんか突拍子過ぎて喜ぶ気にもなれんぞ。

「だから……」

 しかしやはり真央は聴いちゃいなかった。

「だから、私と一緒に世界征服しましょうっ!!」

「ぬわんでじゃああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!」

「大丈夫っ、二人の愛は無限大ですっ!」

「聴いてねええええええええ!!コイツ俺の話を全ッッ然聴いてねえええええええええええええええええええええええええええええッッッッッッッ!!!!!!!!」

 俺の叫び声を聴きつけた警官隊がやってくるのはこれから十分後のこと。

 それらをぶん殴って逃走したのは警官が来てから十秒後。

 ――こうして、俺と真央は出逢い。

 ――こうして、俺は(無理矢理)真央の仲間となり。

 ――こうして、俺は(無理矢理)真央と世界征服をやっている。

 しかし、やってることはもっぱら真央のお守りのような気がしないでもない。

 

 

 そして、今日も真央は俺を起こし、一日が始まる。

 現在の世界征服度。

 0%。

  果たしてこのパーセントが増える日は来るのか。

 それは見事に謎である。 

 

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