後悔っていうのは文字通り後になって悔やむから後悔と言うのであって、それの殆どが無計画、無気力、無知という自分の責任で起きるものだ。

そう、俺は今正に後悔をしている真っ最中であった。

「戦いの最中に何を考えておる!来るぞ!」

 犬親父の怒声が響いた。

俺はバックステップをとり敵との距離を開ける。すると先刻(さっき)まで俺のいた場所を剣閃が通過していった。

「お見事。私の初撃をかわすとは、さすが真央様が認めた婿殿ですね」

「いや、婿って俺達まだそんな関係じゃないんだけど…」

彼女の言葉に抗議の声を上げてみるが

しかし、俺の言葉など耳に入らないらしく彼女は剣を水平に構え次の攻撃に備えていた。

「なあ、そろそろやめて頂けると俺は非常にうれしんだが…」

「申し訳ございません。私の(めい)は『先代魔王の無力化』でありますので、その命が達成できるまで私も帰れないのです。」

彼女はすまなそうに笑顔を作って答える。

まったく、何でこんなことになったのかなー

「ふん、使い魔風情が大口を叩くな。さあ、下僕よ我が為にこやつを調伏せよ!」

「誰が下僕だ!元はと言えばテメエに降りかかった火の粉だろ自分で何とかしろよな!」

「ごほ、ごほ、持病の癪が…」

これだよ、この犬親父は先刻(さっき)からこの調子で俺に彼女の相手を任せっきりにして自分は安全な場所で吼えているだけ、たくっ、こいつホントに元・魔王なのかよ…

「では婿殿、この技が避け切れますかな?」

「お前…当初の目的忘れてないか?」

「奥義・無限斬!!

「聞いちゃいねぇえええええ!!!」

彼女は俺の叫びを聞く事もなく、剣をもの凄いスピードで振り回しながら突進してきた。

彼女の名前はエクスシア

権力の名を持つ真央の使い魔である。

 

時は少し戻る

 

俺はフォトヴェーストへと続く道を歩いていた。

お供は奇妙、奇天烈、珍品のウイルッシュ・コーギー(元・魔王)一匹だけである。

「しかし、解せぬな」

「何が?」

元・魔王(口調以外それっぽくない。もとい名前負けしているので以下犬親父)が当然俺に話しかけてきた。

「お主は先程真央の事を信じると言ったが、何故そう簡単に信じると言えるのじゃ?我の記憶では人が他者を信用するのはお互いの利益が一致した時だけだと記憶しておるが…」

さすが魔王と名乗っていただけはある。人の闇の部分をよくご存知で、けどそれが全てだと思っているようじゃまだまだだね。

「簡単な理由さ、俺は自分に自信を持っている。だから俺が信じられると思った人は絶対に俺を裏切らない。だから信じられるそれだけさ」

もっとも裏切らないんじゃなくて裏切らせないなんだが…そこまで言う必要は無いだろう。

俺の答えを聞いた犬親父は眉を寄せ、何かを考えるようにブツブツ言っていた。

「成る程…そのような考えもあるか。…しかし、こ奴、人を見る目は確かなようじゃな。確かに真央はこ奴を裏切るような真似はせんだろうが・・・」

その時だった目の前に彼女が現れたのは。

それはあまりにも不自然で奇妙で唐突で突然だった。

荒野の視界を遮るものが何も無いこの状況で彼女は突然それこそ振って沸いたかのように俺達の目の前に立っていた。

「見つけましたよ。魔王様」

彼女はそう言うとニッコリと笑い俺達に会釈した。

金色の髪、黒い瞳と無駄な肉のついていないその体全体が織り成すコラボレーションは彼女がただのパツ金美女でない事を物語っていた。

「ほう、『影の(シャドウ)八守護者(ガーディアンズ)』のエクスシアではないか。久しいな」

どうやら犬親父の知り合いらしい。

まっそうだろうな、彼女…エクスシアだっけ?の第一声が『魔王様』だもんな

「しかし何故真央の使い魔であるお主がこのような所に?」

犬親父が訝しむようにエクスシアに質問する。…ん?今使い魔がどうのって言わなかったか?

……もしかして彼女の事か?

「はい。真央様の(めい)によりあなた様を無力化しにきました。」

どうやらそうらしいな。笑顔でなんか過激な事言っているし…

「真央が?そうか…遂に我を殺す決心をつけたか。しかし使い魔ごときに我が手を下す事もなかろう。ということで頼んだぞ下僕。」

「はあ?!」

なんか急に振ってきたんすけどこの犬。

「ちょと待て!なんで俺が巻き込まれるんだ!彼女が用があるのはお前だろ犬!それに俺は下僕になった覚えはないぞ!」

「ふっ、お主が真央の下僕であるのなら必然的に我の下僕でもあることになる。下僕なら主の命を守る為に体を張るのは当然の事であろう?ということでいけ」

うわ、最悪な理屈それになんか俺、真央の下僕決定らしいし…

つうか、何偉そうにしてやがんのこの犬。保健所に強制送還してやろうか!?

「成る程、私が真央様の命を遂行する為にはあなたを倒さなければならない。そういうことですね?」

「いや、そんな事言ってないし…それに俺は平和主義者だからできるなら穏便にすませたいのですけど…」

「それでは行きますよ!」

「人の話を聞けぇええええええええ!!!!!!」

彼女は俺の言葉に耳を貸すことなく、手の中に『断罪者の剣(エクゼキュートソード)』を出現させて斬りかかってきた。

 

そして時は戻る

 

「はあああああ!!!」

エクスシアは気合一心に剣を振る。

その軌道は一見デタラメのようであるがその全てが次の技、次の技へと繋がっており、隙だと思って飛び込めば即ミンチにされてしまう。さすが奥義と言うだけの事がある。

「どうしました?逃げてばっかりでは勝てませんよ」

エクスシアは余裕の表情で言ってくる。

確かに勝てないだろうな…彼女は激しく剣を振り回しているのに呼吸が一切乱れてなく、摺り足も完璧、おまけに言うと俺はノー装備、勝てる要素など何一つありはしない…

でもまっ、

負けなければどうにかなるでしょ。

そうポジティブ思考に考えることにすると、意識を戦いに集中させる。

…うーん、やっぱりキレイだなー。使い魔って言っていたからルナの眷属なのかもしれないな。

などと、下らない事を考えてしまっていたからか、俺は足下の石に躓き転んでしまった。

「な、しまった」

「勝機!!」

くそ、このままじゃ()られる。

エクスシアは剣を上段に構えてとどめを刺そうとしている。

何か、何か防ぐ物は…

俺は目線をエクスシアに向けたまま手探りで何か防げそうな物を探す。

「下僕!これを使え!」

犬親父が何か投げてきた、何か袋の様であるが気にしてる余裕はない。

一か八かコイツに掛けてみるか!

「お覚悟!!」

エクスシアがそう言って剣を振り下ろしてくるのに合わして袋をフレイルのようにぶつける。

ガシイイインンン!!

硬質的な音が響いた。どうやら袋の中に何か硬い物が入っていたようだ…って、これは転移宝珠を入れている袋じゃないか!!

そう思った矢先、袋が眩い光を発し始めた。

光はしだいに強くなり、俺とエクスシアを中心に辺りを飲み込んでいく…

「ぬう、やはり転移宝珠を武器として扱うのは危険であるようだな」

光に飲み込まれる寸前犬親父の呟きが聞こえた。

こらまて、このクソ犬危険だと解っていて渡しやがったのか!?

この、この、この・・・・・

「このクソ犬畜生がぁアアあああああああ!!!!!!!!!」

俺の叫びか奴に届いたかどうかは解らない何故なら俺はすでにそこにはいなくなっていたからだ。

 

それは突然のことでした。

突然強大な魔力がフォルティル大陸から感じたのは。

私はフィシスさんを探す為、探査魔方陣の中心にいました。

「何、この異常な魔力は…」

それは私が今まで感じた事のないほど強力で、空間そのものが捻じ曲げられたのがここでも明確に感じられました。

それ程強力な魔力の波動がアークファルナ全土に向けて放たれて行きました。

(このクソ犬畜生がぁアアあああああああ!!!!!!!!)

その時でした。魔力の波動の中からフィシスさんの声が感じられたのは。

「フィシスさん…?」

声は次第に遠ざかり、その声はデスグラードンに向かって行きました。

…何がなんだか解りませんが、デスグラードン大陸そこにフィシスさんがいる・・・

私は魔方陣からでるとデスグラードンに向けて旅立ちました。

「フィシスさん待っていて下さい。必ずあなたを捕まえてみますからその時は……きゃ

 

気が付くと俺は砂漠の真ん中に立っていた。

「…最悪だな」

ホント最悪だ、何ゆえ砂漠の真ん中に転移してしまうかな…しかも見た感じここはデスグラードン大陸らしいし、下手に動いたら砂の中のモンスターと戦闘とかなりそうだし、けどこのままここに居たら飢え死にか干からびて死ぬかのどちらかしかない…

「まっ、運がよければモンスターに逢わずに町に着くことも出来るだろ。」

俺がそう言って歩き出そうとしたその時だった

「たーすーけーてー」

酷く間抜けな声が砂丘の向こうから聞こえたのは。

俺は砂丘を登って声のした方向を見るとそこには砂虫(サンドワーム)に追われている白くて丸いモノがいた。

「なんじゃありゃ?」

どーも、助けを求めているのはあの白い生モノらしいのだが、人語を話す白い生物(なまもの)なんて気味悪いし、一体どうしたらいいものか・・・

1、   助けを求めているんだから助けてやる。

2、   とりあえず見なかったことにする。

…即行で二番決定。弱肉強食の自然界に人間がやすやすと関わるものじゃないな。

俺は踵を返すと、奴らとはまったく違う所に向かって歩いて行く。

ド、ド、ド、ド、ド、

何か、後の方からいやーな音が…

恐る恐る後を振り向いてみると、白い生物(なまもの)砂虫(サンドワーム)と供にこっちに向かって来ていた。

「そこの人、助けてくれー!!」

「わっ、こっちくんな!」

俺は全速力で駆け出した。どうやら俺の事に気付いていたらしい…

「とお!」

「うわっ!」

突然背中に重りを感じ、危うく転びそうになるが気力で耐える。

「ほれ、さっさと逃げんか!!」

「な、何人の背中に乗っているんだよ!降りやがれこの!この!」

肩を揺らしたり激しく動いてみるがコイツしっかり捕まっていてどうも振り落とせそうに無い。

キシャアアアア!

ちっ、俺は何でこう非日常的なもんに出会うんだ?呪いか?誰か俺の事をそんなにも呪っているのか!?

とにかく、悩むのもこの生物を振り落とすのも後回しだ。今はコイツからどうやって逃げ切るかが優先だ。

俺は宛てもなくめちゃくちゃに逃げ回った。

 

―それから一〇分後―

 

「はあ、はあ、…どうにか巻けたな…」

「おお、助かった助かった。いやー一時はどうなるかと思ったが…人生なんとかなるものだなハハハハハ」

ふざけるな!てめえはただ俺の背中にくっ付いていただけだろうが!

…っと言おうと思ったが息が上がっていて言葉を発する余裕なんてなく、心の中だけでしか言えなかった。

それにしても…コイツ何て言うか…なんでこんな珍妙な顔してるんだ?

体は白くて丸ぼったく、解りやすく言うと某ゲームのお化けみたいなのだが…

「ん?なんじゃ先刻(さっき)からワシの顔をジロジロ見おって…」

「いや、そのなんて言うか…」

…そりゃあ、あんたの顔見たら気になりますよ、だって…

ごんぶと眉毛の劇画顔の生き物なんて普通見ないだろ。

「は!もしかしてワシに惚れてしまったのか!」

「うわ、よくもそんな素敵な勘違いしてくれるな…」

「冗談だ、マジに受け取るなよ」

…何かムショーにこいつをロープで縛って逆さ吊りにしてカラスの餌にしたくなったぞ。

「それにしてもスゴイなお主は、あの様に砂虫を巻く者は初めて見たぞ」

「はあ、そりゃようござんしたね。それじゃ、さあようなら」

俺はそう言うと奴を置いて立ち去ろうとするが…

「待て、待て!ここはお互いに自己紹介して生存の喜びを分かち合うシーンではないのか?」

何言ってんだかコイツは、

俺は無視を決め込みスタスタと歩いていった。

「こりゃ、待たんか!人の命を助けておいて礼の言葉も聞かずに立ち去る気か!」

なんか文章的におかしなこと言っているが無視無視…

「このギャルゲイマー、アニメオタク、引きこもりー!」

……(ムカッ!)

「この(ピーー)(ーー)(ーー)(ーー)野郎!」

―プツン

キれた、完璧キれました。ええキれましたともそりゃもう(てっぺん)に!

俺は振り返る時の遠心力を利用し奴の顔面に拳を打ち込んだ!

「ぐびゃ!」

奴は奇妙な悲鳴を上げゴム鞠の用に派手に吹っ飛んでいった。

「あまり調子に乗るんじゃねえぞ、ゴム鞠モドキが!」

しかしその言葉が奴に届いたかどうかは解らない。

奴は砂漠の彼方に消えて行ったからだ。

 

十五分後―

 

俺は未だに砂漠に居た。

右を向いても砂漠、左を向いても砂漠、前も後も上も下も(いや、上は嘘だけど…)とにかく

砂砂砂砂砂砂砂砂砂砂砂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・砂!

もうイヤになるぐらい砂しかない、町も、その蜃気楼すらありやしない。

これはもう呪いとか運命とか言うモノじゃない!陰謀だ!そうだ何処かの秘密結社が俺を苦しめようと暗躍しているに違いない!くそ、いつの時代も正義の味方は苦境に立たされるものなのか!

「ふ、いいパンチだったぜ…」

「わっ!」

突然かけられた声に驚きの声を上げる。

声のした方を振り向くとそこには顔を腫らした奴が浮いていた。

「あまりにも強烈だったので真っ白に燃え尽きる所だったよ」

いや、むしろ燃え尽きて三途の川渡って欲しかったんだけど…

「それにしてもお主はさっきから何をやっておるのだ?ガオの町なら反対方向だろ?」

「へっ?」

つい間抜けな声を上げてしまった。なに、こいつ町のある場所知っているのか?

「町の場所知っているならあんたはなぜそこに行かないんだ?」

「あんたでは無い!ワシにはウイッカというカッコイイ名があるんじゃ!」

「はいはい、それでそのウイッカさんはなんでガオの町に行かないのですか?」

「行こうとしていたら砂虫に追いかけられ、どうにか逃げられたと思ったら今度はあんたに吹っ飛ばされてしまったからだ!」

…成る程、俺のせいか。でもまっ、どこに町があるのか解った事だしプラマイゼロってことでよしとしよう。

「お主今プラマイゼロとか訳の解らないこと考えなかった?」

ギク!

何、こいつも真央と同じ人の心読めるのか?いや、そんな筈がない。天地を創造し、自分に似せて人を造った神様がこんな謎生物に真央と同じ能力を与えるはずがない!そうだ、方や白くて丸い劇画顔のごんぶと眉生物。方や清楚で可憐な天使の如き魔王が何かしらの接点を持っているはずが無い!よってさっきこいつが言った言葉は適当な事に決定。

「まあそんな事はどうでもいいのだ。お主もこれからガオの町にいくのだろ?ならば共に行かないか?また砂虫に追われでもしたらイヤじゃからな」

よーするにあれか、俺を用心棒にしたいのか?まっ、行き先も同じだし構わないか。

「別にいいぞ」

俺が二つ返事で答えるとウイッカは「おっし」と言って先行して行った。

「そう言えばお主の名前を訊いてなかったな」

「ん?俺の名前か、俺の名はフィシス・綾崎・フィンドーラだ」

 

ガオの町は賑わっていた。

「なんか…結構賑やかな町だな。」

俺は見たまんまの感想を述べた。

確かにここデスグラードン大陸は環境の割には豊富な資源の採掘できる場所だが…

いくら何でもこれは異常だ。

「それはそうだろ。最近この町の近くで『古代(アルヘオス)遺跡(ナオス)』が発見されてな、それ見たさの観光客や調査団がこの町に滞在しているからそれで賑わっているのだろ」

成る程ね。これで合点がいった。

しかし『古代(アルヘオス)遺跡(ナオス)』ね……

後で見に行ってみるか。

「うむ、それでお主はこの後どうするのじゃ?」

「別に、とりあえず宿の予約してそこら辺をうろついてみるさ」

「ほう、別にと言ったあとにとりあえずという単語をつなげるかふむふむ…最近の若いもんは簡単な文法もできんのか・・・はあー」

こいつは砂漠の果てにまた吹き飛ばされたいのか?

「とまあ、冗談はさて置き」

「いや、今のは冗談とはいわんだろ…」

「ワシはここで分かれる事にしよう。暫くここ居るというならまた逢う事もあるだろうな。では」

ウイッカはそう言うと人ごみの中に消えていった。

…なんなんだか、奴は。

兎に角宿を探す事を優先するか。

 

数分後―

 

「いらっしゃいませ。お泊りですか?」

宿屋の受付嬢がニッコリとマニュアル通りに答えてくれた

「ああ、そうだ」

「でしたら。窓をお使いですか?それとも部屋をお使いですか?」

…は?

何のネタですかそりゃ。

いや、オリジナリティーはあるけど…窓ってなに?

「いや、普通に部屋でいいんすけど…」

「かしこまりました。これが部屋の鍵となります。」

そう言うと彼女は部屋の鍵をカウンターの上に置いた。

俺は鍵を取ると、お金を置いて宿屋を後にした。

それにしても、窓を選んだらどうなったのだろうか…

 

フフフ…

ついに来たぞ、ガオの町!

途中砂虫に追われたり、変なガキに吹っ飛ばされもしたがとにかく着いたぞ!

フフフ・・・それにしても、予想よりもたくさん居るわなー

かわいこちゃん

さすが『今話題の町』と月刊アークファルナウォーカーに掲載されていただけの事はあるな。

ではさっそく

「へーい!そこの茶髪の彼女、オジサンと一緒に遊ばない?」

「は?何言っての。あんたみたいなキモイのと遊ぶ筈無いじゃん」

ぐわ、食いつき最悪

その上コイツコギャルだったのか、いきなりハズレを引いてしまった。

しょうがない他の子を探しますか。

えーっと、何処かにかわいこちゃんは・…

「見つけたぞ!」

はい?

今のワシの台詞じゃないぞ。

「こんのーク・ソ・お・や・じー!!!

「ぐはっ!!」

何かがワシの顔に直撃した!

ワシはその勢いのままゴロゴロ転がり、町の中心にある噴水にダイブしてしまう。

「ピュー(水を吐き出す音)、なんじゃ、だれじゃワシのビューチふるな顔に蹴りなどをいれた不届き者は!」

「久しぶりだな、親父」

ワシが噴水の中から顔を上げるとそこにはオレンジ色の鱗を持つワシ位の大きさの幼龍が仁王立ちしておった。

…オレンジ色の幼龍?はて、どこかで見たような…

「人を、もといオレを見世物小屋に売っぱらっておいて自分は呑気にナンパか?随分とふざけた事してくれるじゃないか」

「見世物小屋に売った?んー……ああ、誰かと思ったら我が息子のノアではないか」

「忘れてたんかい!」

「ぐお、親の顔を尻尾で叩くとは何たる親不幸だ!父さんはお前をそんな子に育てた覚えは無いぞ!」

「育ててもらった覚えなどない!それに尻尾で叩いた位で親不孝なら、キャバクラでした借金の返済の為に自分の子を売り飛ばすような親は最低な子不孝野朗だ!」

「獅子は煎じんの谷に我が子を落とす!」

「テメエのどこが獅子だ!」

ノアはそう言うとまた尻尾でワシを叩こうとするが、ふふふ…そう何度も同じ手にかかるワシではない!

華麗に上体を反ればほれ、簡単に…

「ぐはっ!」

…な・・・なんと、尻尾と回し蹴りのコンボとは我が子ながらアッパレ…

がくっ

「何死んだふりしてんだ。オレの怒りはこの程度じゃすまないぞこら!」

「わーん、誰か助けてくれー!!!」

 

なんだか噴水の周りが騒がしかった。

「おい、なんか噴水であったのか?」

俺は通りすがりの人に何があったか訪ねてみた。

「いやな、何か幼龍と白いナマモノが噴水の中で喧嘩してるらしいんだが…」

白いナマモノ!?

まさか…

俺は嫌な予感がしながらも噴水の近くまで行ってみる事にした。

 

「うおー、眉毛は、眉毛だけは引っ張らないでくれええええ!」

「うるさい!お前みたいな最低人間はこうだ!」

「うぎゃあああああああああああ!!!!」

…予想的中

噴水の中ではウイッカとオレンジ色の幼龍が喧嘩をしていた。

といってもこれはどっからどうみてもガキの喧嘩のようなのだが…

「おお!そこにいるのはフィシス殿ではないか!」

げっ!気付かれてしまった。

野次馬の人全員の視線が俺に集中される。

やべ、なんか知り合いだと思われてしまった、ここはさっさと退散した方がいいな。

その時だった

ウイッカは馬乗りになっている幼龍から抜け出ると俺の方に飛んできた。

「助けてー!フィシえもんー!」

俺は飛んできたウイッカを咄嗟に右手で叩き落とした。

さすがにそのネタはヤバイだろ。

「ぐはっ、ヒドイ…」

地面にめり込んだウイッカはピクピクと痙攣していた。

ふう、どうにか悪は成敗できたようだ。

「あんた、親父の仲間じゃなのか?」

噴水から出てきた幼龍が不思議そうな顔で訊ねてきた。

「違う!全然全く持って俺はこいつと完璧百パーセント無関係だ!」

「・・・う、そんな…ワシ達は一緒に…ぐはっ!!」

なんか余計なこと言おうとしていたので踏み潰した。

「…どうやら、仲間で無い事は確からしいね」

よし、どうにか俺の汚名は返上されたようだ。

いやーよかったよかった。

「ではすみませんが、そこのクソ親父を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

「はっ?なんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ?」

「この町の女性の尊厳と貞操を守るためです」

うわ、なんかすごい重要な任務押し付けられたんですけど…

しかも周りの皆さんの視線がさっきからジーっと熱いのですけど…

「…解りました。皆さんの平和の為、このナマモノの処分させていただきます・・・・シクシク・・・」

「ありがとうございます。心広き人」

やめてくれ、今の俺にそんな称えるような言葉はかけないでくれ頼むから…

俺は地面に埋っているウイッカを引っこ抜くとその場を後にした

 

「…と言うわけで、非常に不本意ながらオレはこいつとは親子関係にあるわけなんだ。」

そう言って幼龍は本当に不本意なのだろうか、大きな溜息をついた。

彼の話をまとめると、

彼の名はノア・ポルタ・インフェルナと言い、ウイッカと『滅龍(ルシフェード)』との間に生まれた『戦龍(タクティカルドラゴン)』と言う種族の人らしいのだが…そんな龍の名前など聞いたことがない。

「知らなくて当たり前だよ、オレ達は絶対数の少ない種族で普段はこの世界とは違う位相にいるからね」

…と言う事は、ノアは宇宙人もとい宇宙龍ってとこか?

それにしても、このウイッカって奴は話を聞いた限りだと最悪だな。

妻子がいる身でいろんな所に行ってはナンパやセクハラを繰り返して、その上自分の息子であるノアをキャバクラ通いで出来た借金を返済する為に見世物小屋に売り飛ばして、自分は懲りずにナンパをしていたなんて……一度逝かせた方がいいかもな。

「ちょいと、そこの人」

その時、しわがれた老婆の声が聞こえた。

辺りを見渡してみるがそれらしい人物はいない。空耳か?

「こっちじゃ、こっち」

どうやら空耳じゃなかったようだ。

もう一度辺りを見渡して見ると裏路地に続く道の入口に怪しげな店があった。

「どうやら気付いたようじゃな」

声はその店からしていた。

さて、どうしたものか…

1、   呼ばれてるんだから行ってみる

2、   お年寄りはいたわるべきだ

3、   合体させられそうだから行かない

だよな、行っていきなり何か変なのと合体させられたらやだもんな。

というわけでさようならー

「待て、待て、なんか非常に勝手で無茶苦茶な偏見で私の店を鑑定しないでー、普通の占い屋さんだからー」

…ふむ、自分で普通とか言っているがただの占い屋ならいいっか。

 

「ふぉふぉふぉふぉ、いらっしゃい」

店には頭から黒いロープを着込んだ人物がいた。

声から察するに六十代前後の老婆らしいのだが、なにぶん全身が隠れてしまっているので予想でしかない。

「んで、俺に何か用か?」

「ふぉ、ふぉ、お主最近変な事に巻き込まれておらんか?」

「へー、さすが占い師だな。…でもこんなの持ってたら、そんな事誰にでも解るよな…」

そう言って右手のナマモノを持ち上げる。

ウイッカは何の抵抗もせず、ぐてーとしている。

もしかして、死んだか?

「ふぉふぉ、それの事ではない、そうじゃのう…女難とでも言うのだろうか」

「!」

心当たりあり。

あのエクスシアのことか?

そう言えば彼女はどうしたのだろう?犬親父が狙いだったみたいだから、暫くは会わないとは思うが…

「へい、お嬢さんこんなガキの事は放っといてワシとあまーい夜を過ごさなかいかい?」

先程まで死んでいた筈のウイッカが突然老婆の事をナンパし始めた。

「お前いつごろから起きていたんだよ」

「ふん、ついさっきに決まっておろう。せっかく目の前に美女がいるというのに口説かないのは男ウイッカ一生の恥じ、という事で、どうですか今夜お嬢さん?」

…ノアが言っていたことはホントだな。でもまさか守備範囲がこんなにも広いなんて…

ノアの方を振り向くとノアは口をあんぐりと開けてボー然としていた。

無理もないだろうな、仮にも自分の親父が熟女フェチしかも究極(アルティメット)の領域でいきなり『お嬢さん』とか言ってナンパしてんの見たらそうなるわな。

「ふぉふぉ、あまり老人をからかうものじゃないぞ」

「老人?はて、いったい誰のことを言っておられるのでしょうかな?」

おい、ウイッカそれはもはやお世辞の領域を飛び出て嫌味になっているぞ。

「親父…いくらあんたが女好きでも老人をナンパするのだけは止めろよな・・・」

お、立ち直ったノアが正論を口にした。

「は?もしかしてお主らこの『お嬢さん』が老人とでも思っているのか?」

俺とノアは同時に頷いた。

「お主らの目は節穴か!!」

『そりゃお前だろ!』

俺とノアは同時に叫んだ。

「すいません。ウチのバカ親父が変な事を言ってしまって。」

「ふぉふぉ、気にせんでよいぞ」

ノアの謝罪の言葉に心良く答えてくれる老婆、ホント心の広い人で良かった。

その時、突然ウイッカが老婆のロープを剥ぎ取った。

「これを見てもお主らは彼女が老婆だと言い張れるのか!!」

剥ぎ取られたロープの中には六十過ぎのお婆ちゃんでは無く、十二、三歳ぐらいの髪を二つに分けた可愛らしい少女の姿があった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思考停止

再起動

はい?なんですかこりゃ?

何でしわがれた老婆のような声をだしていたロープの中から美少女がでてくるんですか?

「い・・・いやーーーーーーー!!!!!」

突如、彼女は甲高い年相応の悲鳴を上げた。

「な、なにするんですかあなたは!こんなことタッちゃんに知られたらオシオキされちゃうじゃないですか!早くロープを放してください!」

「ほう、オシオキとな。それがどう言うものか是非とも聞きたいものじゃなー」

「な、そんな恥ずかしい事言えません!」

「ほーう、そんなに顔を赤くするような恥ずかしい事なんだ。もしかして○○○とか╳╳とか、それとも☭☯☻♂なのか!」

「いーーーやーーーー!!!!」

「ほらほら、どうした両手で耳を塞いでいたら取り返せないだろ。ほれ、ほれ、ぐはっ!!」

調子に乗って放送禁止用語を並べるウイッカに俺とノアは同時に蹴りを食らわせた。

ほんと、今の行為は最低だぞ。

地面にゆっくりと落ちていくウイッカを尻目に俺は彼女に頭を下げた。

「ほんと、すまん!なんか嫌な思いをさせちまって。」

「オレからもすまん!親父の奴、女性が嫌がると調子に乗ってからかいだすっていう趣味が昔からあって…とにかくすいませんでした!」

「いや・・・あの…私は大丈夫ですから、頭を上げてください」

なんて心の広い人なんだ…

俺とノアは言われた通りに頭を上げた。

「もとはと言えば私が老婆の声で皆さんを騙していたのがいけないんですから…」

くぅー、人を責めずに自らの非を改めようとするその姿勢まるで聖女のようだ。

それにしても…

あの完璧な老婆の演技を見破るとは恐るべし、ウイッカ

「それで、あの…占いの続きをしたいんですけど…」

「へ?」

予想外の言葉についつい間抜けな返事をしてしまった。

占いって、してもらっていたっけ?

うーん・・・・・・・・・・・・してもらっていたような、ないような…

まっ、どちらでもいいっか。

「別に構わないよ」

「ホントですか!」

俺が答えると彼女は瞳をキラキラと輝かせた。

う、美少女光線が…

「それでは失礼します。」

彼女はそう言うと俺の近くまでてくてくと歩いてきた。

すると突然両手で俺の顔を挟み込んだ。

「えっ?!」

突然の事にどぎまぎする俺、挟み込む力は痛くはないのだがそれなりに強力なモノであった。

そして、彼女の顔がゆっくりと俺に近づいてくる…

って、ちょっと待ておい。これはもしかしてあれですか、キスですか?マウスちゅーマウスですか?

なんでいきなりフラグ立ってるんすか?

というかこれは罠ですか?It‘s trapですか?俺は恋に落ちるべきなんですか!?

そんな事を考えている内に彼女の顔はすでに吐息がかかるぐらいの距離にあった。

「えっと、そのあの…」

「動かないで下さい!」

彼女から叱咤の声が発せられた。

思わず黙ってしまった。

彼女の瞳が俺の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。

もはや心臓はバクバクと早鐘のように鳴り響き、俺の意識は彼女に釘付けだった。

「…成る程、解りました」

彼女はそう言うと手を放して顔を引いた。

へ?何が解ったんですか?

とゆうかさっきのアレはなんだったんですか?

色々疑問渦巻く俺の事を置いて彼女は淡々と語り始めた

「漆黒の闇が見えました。暗く、深い深淵が、その闇の中に同じような黒い翼を持つ人も見えました。彼女はあなたを見つけると涙を流しながらその手に持った鎌であなたを切り裂き、自らの羽根を真っ赤に染めて、それで…」

「それで?」

「…すいません。ここから先は教えられない事になっているのです。」

彼女は申し訳なさそうに謝った。

いや、謝られても…ねえ。それにしても、今の話ってまとめると俺が殺されるってことか?

なんか嫌な結果が出てしまったな、でも黒い翼の人なんてそうそう会うもんじゃないだろうからそんなに心配する必要もないだろう。

「ありがとう、それじゃこれ占い代。」

「そんな、私が勝手に呼び止めたのですからお代なんてそんな…」

「結果はどうあれ、ちゃんと占ってもらったんだから代金は払わないとね」

俺はそう言うと彼女の手に占い代の料金を握らせ店から出て行こうとした。

「フィシスさん!」

「ん?」

「運命は変えられますから、その…がんばってください!」

俺は彼女のその声援に親指(サムズ)立て(アップ)で応えると店を後にした。

・・・・・・・・ん?なんで彼女は俺の名前を知っていたんだ?

 

 

「いっちゃった・・・」

「リリア」

「きゃ!タッちゃん何時からいたの!?」

「つい今しがたからだ。それにしてもリリア『赤染めの女神』の情報は何かはいらなかったか?」

「うん、たった今彼女と出会う運命の人にあったよ」

「ほーう、となるとさっきの少年が…よくやった偉いぞリリア」

「てへへへ

「しかし、ロープは絶対に脱ぐなと言っといたはずだが?」

「えっ、これはその…ちょっとトラブルがあってその…」

「言い訳は聞かん。約束を破った罰としてグランド三周!」

「そんなー、あっ、でもいつものよりかは楽かも。それでそのグランドって?」

「ここからガオの町の外周全てだ」

「そんなー、それって約十四キロじゃん死んじゃうよー」

「無論できなかったら晩飯はぬきだ。」

「うぅぅ・・・解ったよーそれじゃあグランド三周してきまーす…」

 

「ふう、疲れた。」

俺はそう言うとベッドにドカッと寝転んだ。

うーんふかふかして気持ちいいー

「おいこら、なんでワシがこんな目にあっておるのだ!?」

部屋の端の天井に縄で縛って吊るしているウイッカが何か言ってきた。

彼の質問にノアが答える

「親父はそうでもしとかないと、オレ達が寝ている間にまたナンパに行くだろ?そうさせない為の事前処置と言うやつだ」

「うう、せめて亀甲縛りにしてくれないか?」

「ふざけんなヘンタイ!」

そう言ってノアの殺戮乱舞が始まった。

・・・

「どうしたフィシスさん?まだあの占いのこと気にしてんのか?」

「ああ。」

そう、俺は未だにあの占いの事が気になっていた。

「気にする必要はないと思うぜ。占いなんてそれっぽいこと言って客を騙すようなものばっかりなんだから、あの女の言っていたことが本当に起こるかどうかなんて眉唾ていどだって。」

「そうでもないぞ」

突然ウイッカがマジメな口調で会話に入ってきた。

「そうでもないって、親父なんか知っているのか?」

「ああ、あのお嬢さん首元の所に『メザロリ教』のバッチがついておったからのう」

「メザロリ教!?」

俺はウイッカの言った言葉に大声で反応してしまった。

メザロリ教−つい最近できた神を崇めない宗教集団であり、時そのものの研究と探求をする科学者達の集まる場所、別名「貪欲なる者達の聖域」

彼女がそのメザロリ教の人間だったなんて…

「それに、フェシス殿にしたあれは『マティの儀式』と言うもので『時見の聖女』が行う最大の未来予知だからの、あの占いが外れるなんてことはまず無い。」

ウイッカはそう断言した。

しかし、『マティの儀式』だの『時見の聖女』だの一般の人が知らないような事をよく知っていたなこの親父は。

「でもまっ、彼女の言っていた通り運命なんて気に喰わなきゃ変えちまえばいいんだから。それほど悩む必要もないか。」

「うむ、その通りじゃ、『時見の聖女』がする占いは必ずしも回避不能な運命ではないからな」

そっか、それじゃ俺が殺されるって運命は変える事ができるんだな。

それを聞いたらなんだか安心したよ。

「ふぁーあ」

なんだか急に眠くなってきたな。

「フィシスさんオレも眠くなってきましたそろそろ寝ませんか?」

「そうだな、そうするか。」

「ちょっと待て!ワシはこのままなのか?放置しぱなっしなのか?」

ウイッカが何か言っているが気にせず俺達は眠りについた。

 

その頃の前魔王

 

「おのれー下僕めぇー我輩を置いて消えるとはなんたる不義!」

「魔王様覚悟!」

「ひゃあ!待った待ったそんな物騒な物で我を殴ったりしたら動物愛好家の輩が黙っておらんぞ!」

「大丈夫です。生徒防衛だと言い切りますから。」

「そんな事が通用するかああああ!」

「問答無用!てあ!」

こうして、前魔王とエクスシアの追いかけっこはまだまだ続くのであった。

  

第二部

   赤染めの女神の目覚め

 

私はその時、見てはいけないものを見てしまいました。

私はその日、悲しみに押しつぶされそうになりました。

私はその夜、大好きな人に拒絶されました。

私はその瞬間―

 

「…シ……ん」

何かが耳元で聞こえたような気がした。

しかし、俺はまだ夢の中にいて、その声が現実の物であるか幻であるのか分からなかった。

「フィ……さ…ん」

また聞こえた。

しかし今度は言葉だけでなく、腹部に何かが乗っかる重みを感じた。

「フィシスさん…」

今度は完全にその言葉がなんなのか聞き取れた。

俺の名前だ。

誰かが俺のことを呼んでいる…

そして俺が瞼を開けるとそこには美しい白い羽根を生やした少女が俺の上に跨っていた。

「…真央…なの…か?」

俺の問いかけに彼女は妖艶な笑みで応えた。

何かがおかしい。

真央の表情を見た俺は真っ先にその言葉が浮かんだ。

そして彼女は弄るようにその手を俺の体に這わせ、脇腹、胸、顔の順に動かしていった。

「真央?」

彼女は俺の言葉に応えず、その行為を続ける。

そして彼女は俺にしなだれかかってきた。

小振りながらも弾力のある胸の感触が伝わってくる…

「フィシスさん…」

彼女の言葉は甘く囁くようで、その吐息は桃色がかっていた。

俺の心臓は早鐘のごとく鳴り響き、頭は熱病に罹ったかのようにぼやけていたが、どこか、意識の隅とでも言う所からか警告音が鳴り響いていた。

「フィシスさん…抱いてください…」

そう言うと彼女は顔を俺の顔に近づけてきた。

違う!

こんなの真央じゃない!

「やめろおおおお!」

俺はそう叫ぶと真央を力いっぱいに弾き飛ばした。

彼女は悲鳴も上げず、ベッドの上から転げ落ちた。

「はあ、はあ、…」

俺は上半身を上げ、ベッドの下にいる真央を見る。

彼女はベッドの下でうずくまっていた。

「…どうして…私を拒むの?」

真央は消え入るような声で訊ねてきた。

「いや、その…こういう事はお互いの気持ちが通じ合った時にするもので…その何と言うか…」

「フィシスさんは私の事が嫌いなんですか!」

真央はそう言って俺の顔を見上げた。

その瞳には涙が浮かんでいる。

「いや、嫌いとかそう言うのじゃなくて…」

どう答えたらいいか言いよどむ俺に真央は烈火の如く言葉を吐く。

「だったらなんで私を拒むんですか!私はフィシスさんの事が好きです。大好きです!なのになぜフィシスさんは私の事を見てくれないんですか!私だけを見つめてくれないんですか!」

「うるさい!!」

俺は怒鳴り声を上げた。

一方的に感情をぶつけてくる真央の言葉につい我慢できずにあげてしまったのだ。

俺が怒鳴ると真央は体をビクッと震わせ顔を伏せてしまう。

そして俺は真央の心を傷つけてしまった事を言った後で気付いた。

「フィシスさんも…私を裏切るんですね…」

違う!そうじゃない。

そう言おうしたが、なぜかそれは言葉にならずただ口を開閉するだけに終わってしまった。

「信じていたのに…」

彼女の言葉が胸に突き刺さる。

俺はなんとか真央に謝ろうとベッドから降り彼女に近づいていった。その時だった―

彼女の羽根が桜のように散り、散った羽根が部屋全体を駆け巡って嵐のようになったのは。

「フィシスさんなんて…フィシスさんなんて…」

嵐はしだいに膨張していき、それと平行してその場に強力な魔力が集結していく。

「大嫌いです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

真央のその言葉と同時に真央の体から強大な魔力の波動が放出された。

その魔力はあまりも強力であったためか真っ暗な闇色をしていた。

 

魔力の放出が収まると、宿屋は変わり果てた姿になっていた。

俺達が泊まっていたのは最上階の四階の部屋だったのだがもはやそこには部屋と呼べるものはなかった。

天井も壁も窓もその全てが吹き飛んでいたのだ。

「クッ……」

俺は魔力が放出される寸前、床に伏せてそれをやり過ごしたのだがこれ程凄まじい魔力を放出するとは…

そう思って立ち上がろうとした瞬間、喉元に何か鋭い刃物のような物が押し当てられた。

「かわいそうに…今度こそ本当に好きなってくれそうな人だと思っていたのに…」

声は背後からしていた。

俺は目だけを動かし後の人物を見た。

そこにはショートヘアーで露出の多い服を着た女性が立っていた。

「あんたは…誰だ…?」

「アタシの名はマナ。マナ・フォノスセア。真央の中に眠るもう一つの人格。」

成る程、これが犬親父の言っていた真央の中で抑圧された魔王の血が作り出した人格と言うやつか…

「それにしても、お前には失望したぞ。フィシス・A・フィンドーラ」

「俺の事を知っているのか?」

「ああ、知っているとも真央が引っ越してきたアパートの住人で真央の下僕だろ?アタシと真央は根本的な所で繋がっているからね、真央が感じたもの、見たものをお互いに共有しているのさ。」

何か一部間違った認識されているんですけど…

でも、こいつの言う事がホントなら

「真央は今この状況を見ているのか」

「残念だけど、真央はあんたの顔を見たくないって自分の殻に閉じこもってしまっているよ」

「そうか…」

俺はそれ程までに真央を傷つけてしまったのか…

しかしなんで真央は急に俺に迫ってきたんだ?

「もう聞く事はないかい?それじゃあ死んでもらうよ」

マナはそう言うと俺の喉元に押し当てている物に力をいれた。

くっ、此処までか…

俺があきらめかけたその時−

火炎息(ファイヤーブレス)!!!」

どこからとも無く炎の塊がマナを狙って飛んできた。

「チイ!」

マナはそう言うと炎の塊に左手を向け魔力を集中させる。

氷結晶(アイスブロック)!」

マナは左手に出現させた氷の魔法で相殺させようとする。俺は自分から注意がそがれたその瞬間を見逃さず、その場から脱出した。

「しまった!」

炎を魔法で相殺した後、マナは俺が脱出に成功した事に気付いた。

「大丈夫ですかフィシスさん?」

体勢を立て直した俺の横に戦龍(タクティカルドラゴン)のノアが降りてきた。ノアの腕にはウイッカを吊るしている縄を握っていた。

「ああ、それにしてもよくあの状況で無事にいられたなお前ら」

「ええ、その…」

俺の言葉になぜかノアは言いよどんでしまった。

俺が不思議そうにノアの顔を見てるとウイッカがノアの代わりに答えた

「なに、実はお主らが乳繰りあっておるときから起きていたんだが邪魔したら悪いと思っての、寝たふりしていただけなんじゃ」

「お、親父―!」

ウイッカがそう言うとノアは顔を赤らめてしまった。

…見られていたのか、あのまま続けていたら真央の奴きっと恥ずかしさのあまり死んじまうだろうな、やめといてよかったかも。

「くっ、伏兵がいたとは油断した」

マナは悔しそうにそう言うと手に持った武器(エモノ)を構えなおした。

マナが持っている武器、それは身の丈ほどもある大きな鎌だった。

さっきは後目でちらっとしか見えなかったがこう改めて見ると彼女が比較的美しい女性であることが解る。

月光に反射して煌く髪、血のように真っ赤な瞳、好戦的だと思わせる鋭い犬歯、そして何よりも彼女の存在を主張しているのが彼女の背中に生えた真っ黒な翼であった。

マナの翼は真央の翼とは異なり、真央の天使を連想させる白い鳥のような翼に対しマナの翼は悪魔のような黒い龍の翼だったのだ。

「黒い翼ね…」

俺は彼女の翼を見たときからある事を思い出していた。

「早速占いが当たってしまったのお」

ウイッカが呑気に呟いた。

そう、俺が考えていたのはあの占いのことだった。

あの占いが本当なら俺は彼女に殺されるわけだが…

「運命は変えられるんだろ?だったら何の問題もないさ」

「そんな悠長な事言ってられるような相手じゃないぞ、彼女は」

「知っているのか?あいつの事。」

「知っていることは知っておるが何分古い書物で読んだ程度じゃ、二百年程前に一夜にして七つの町を滅ぼした悪魔の如き翼を持った女性のことでな、彼女はその町の全てを炎と血の一色だけに染め上げたことから『赤染めの女神』と呼ばれておるのだが…」

「それが彼女だと?」

「おそらくな。」

まさか二百年程前の魔人が相手とは、いきなり生存率ダウンだな。

となると生存率を少しでも上げるためにここは撤退した方がいいな。

そう決まれば後の行動は速い。

俺は回れ右をすると勢いをつけて隣の建物に向かって跳躍した。

「逃がすか!炎の(フレイム)追跡者(ストーカー)!」

マナの指から五本の炎の矢が出現し、俺の事を追跡してきた。

俺は建物から建物へと飛び移りながらそれらの炎を回避していく。

しかし、避けた炎は方向転換してもう一度俺に向かってくる。

「ヒュー、これまた便利な魔法を使うなあ」

ウイッカが口で口笛のマネをしながら感嘆の声を上げた。

「チッ!」

俺はそう言うと今度はその炎に向かって走った。

「ふん、自ら死にに来たか!」

マナの嘲笑が聞こえるがそんなものは無視する。

炎が俺に向かって迫ってくる。

「今だ!」

俺はギリギリまで炎を寄せてから建物と建物の間に下りた。

すると目標を見失った炎は互いにぶつかり合い派手な爆炎を上げた。

よし、狙い通り!

俺は狙い通りマナの目を眩ませて、建物と建物の間の裏路地を駆け抜けていった。

 

フィシスを追っていた炎の(フレイム)追跡者(ストーカー)が互いにぶつかり合い派手な爆炎を上げた。

「くそ、しまった!」

やられたと思った時にはすでに遅かった。

爆炎が晴れた後にはすでにフィシス達の姿はなかった。

「おのれ、思ったよりも頭のいい奴だな…」

アタシは唇を強く噛み相手を侮っていた事に後悔した。

裏路地に逃げ込んだのか。しかしこう広い町を一人で探すのは得策ではないな。

アタシはそう考えると、巨大な魔方陣を出現させその中から『魔道(デモン)騎士(ナイト)』達を召喚した。

「あんた達やるべき事は解っているわね?」

アタシの言葉に『魔道(デモン)騎士(ナイト)』達は無言で答えた。

「ならば行け!」

その言葉と同時に『魔道騎士』達は町に降りていった。

フィシス・A・フィンドーラ、真央の事を裏切ったお前は絶対にアタシが殺してやる。

 

「よく考えたな、相手の魔法を逆手に取って目暗ましに使うなどと」

「あの場ではあれが最善だと思ったんだよ。だからやっただけだ。」

「それでもそれを直ぐに行動に移せたのは賞賛に値すると思うぞ」

「シッ!静かにして何か来るよ。」

先行していたノアから警告の声がかけられ、俺とウイッカは黙り、身を潜めた。

暫くして、重厚なガシャンという音が聞こえて来た。

鎧を着た戦士か?

俺がそう思った矢先そいつは現れた。

全身を包み込むフルプレートの鎧、騎士かと最初思ったがその考えは次の瞬間、間違いだと認識されられた。

彼らの鎧は脈打っていたのだ。目を凝らさなければ解らない程なのだが鎧の各所に血管にも似た管状のモノが走り、不気味に脈打っていた。

「なんだあれは?」

俺は声を潜めてウイッカに訊いた。

「あれは召喚獣の一つである『魔道(デモン)騎士(ナイト)』。あれ程高位の召喚獣を召喚するとは、あの嬢ちゃん中々の使い手じゃな」

「強いのかあいつら?」

「魔法が使える騎士といった位かの、余程のものでないと太刀打ちできんて。」

それほど強力なのか……

俺達が目の前の『魔道騎士』に警戒していると

シュウーコオオオー

と不気味な声が聞こえた。

はっと後を振り向くとそこにはさっきまで見ていたのとは別の『魔道騎士』が剣を振り上げていた。

「くそ、他にもいたのか!」

俺はそう言うとウイッカとノアを抱えて裏路地から飛び出した。

GAAAAAAAAA

俺達の事を見つけた『魔道騎士』が雄叫びを上げた。

すると町の至る所から『魔道騎士』が現れ俺達はたちまち包囲されてしまった。

「くそ、万事休すか…」

「見つけたよフィシス」

声のした方を見上げるとそこにはマナの姿があった。

「色々手こずったけど、ここで終わりにさせてもらうよ。」

マナがそう言うと『魔道騎士』達が剣を構えジリジリと近づき始めた。

「フフフ…ついにワシの出番だな。」

ウイッカはそう言うと俺達の前に一歩進みでた。

「なんか勝算でもあるのか?」

自信ありげに呟いたウイッカに質問してみる。

「安心せい今こそ我が右腕の封印を開放する時!皆のもの心して見よ!」

そう言うとウイッカは右腕を天に掲げ

「ワシのこの手が真っ赤に燃える!」

なにやら呪文のようなものを唱え始めた。

「親父!その技はあまりにも危険だから使わないって言っていたあの技では!」

「黙って見ておれ、ノア!ワシの生き様とくと見せてやる!」

そう言うとウイッカはマナに向かって飛んで行った。

「ひいっさつ!シャインンンンンンぐばあ!」

ウイッカが技を出そうとその瞬間どこからともなく飛んできた看板がウイッカの顔面に直撃した。看板には『みんなで守ろう著作権』と書かれていた。

「…そう言う危険だったのか」

「みたいだね」

俺とノアはウイッカの生き様をしかと見届けた。

「なんだったんだ今の濃ゆ顔は?」

突然襲い掛かってきて何も出来ず勝手に自爆したウイッカに対してマナが疑問の声を上げた。

そんなの訊かれても…答えようが無いんすけど。

「まあいい、気を取り直して、行け『魔道騎士』達よ!」

再び『魔道騎士』達がににじり寄ってきた。

「畜生、何か武器があればどうにかできるのに…」

「武器があればどうにかできるのか?」

俺の呟いた言葉にノアが反応した。

「ああ、武器さえあれば何とかする自信はある。」

俺は断言した。するとノアは暫く考える様にした後俺の目を見つめてこう言った。

「フィシスさんオレと契約してください!」

「は?こんな時に何言っているんだ。」

「いいから早くしてください!」

「だああああ、もう解ったよ契約でもなんでもしてやるよ!」

「待ってました!」

ノアがそう言った瞬間ノアの体が発光し、俺の右手に何か熱い感触が感じられた。

光が収まった時、俺の右腕に龍の頭を象った篭手が装着されていた。

「なんだこれは!」

俺が驚きの声を上げたその時頭の中に声が響いた。

(フィシスさん後、来ます!)

俺は声の言うとおり後ろを振り向くとそこには剣を振り下ろそうしている『魔道騎士』がいた。

(早く、オレを使ってください!)

「使えって…こうか!?」

俺は『魔道騎士』の懐に飛び込み右の拳を打ち込んだ。

メキイイイイ!

俺の打ち込んだ所に大きな亀裂が入り『魔道騎士』は崩れ落ちた。

「スゲエ、これがこいつの力か…」

(どうだい、戦龍(タクティカルドラゴン)の力は?)

また頭の中に声が響いた。この声はノアか?しかし一体どこに…

(おいおい、オレはここだよ、フィシスさんの右腕の所。)

右腕?

俺は右腕の龍のような篭手を見た。

(そう、これが今のオレの姿。フィシスさんとの契約でできた龍具ノアさ!)

「龍具?また新しい単語がでてきたな」

(はは、オレの使い方は解ったよね?それじゃあこいつら倒してさっさと終わらせようぜ)

「そうだな、ちょうどいい武器も手に入ったことだし、さっさと終わらせるか!」

俺はそう言うと猛反撃を開始した。

 

それは予想外の出来事だった。

突如フィシスの隣にいた龍が光ったと思うとフィシスの右腕に龍の顔の様な篭手が装着され、たちまちの内に『魔道騎士』達を倒してしまっていった。

「そんなバカな…」

アタシは我知らずに呟いていた。

ありえない、ありえないことだった。普通の人間が、ただの人間が『魔道戦士』をこうも簡単に倒せるはずなど…

しかし、アタシはその時重大な勘違いをしている事に気付いた。そうだ、奴は普通の人間じゃない、地球とアークファルナを行き来する異端児(イレギュラー)である事を!

「誰かいるか?」

アタシは自分の影に潜むモノに向かって話しかけた。

「ディザイアならここに」

影から野太い男の声が返ってきた。

「真央を裏切った不届きな輩を滅するため力を貸してもれないか。」

「それが命令ならば…」

ディザイアはそう言うと影からその姿を現した。

フィシス、あなたがどれだけ抵抗しようとも必ず真央を裏切ったことを後悔させてやる!

 

 

「ラスト!」

俺は最後の一匹となる『魔道騎士』に右腕を打ち込んだ。

俺の右腕が決まり、『魔道騎士』は崩れ落ち、これで全ての『魔道騎士』を倒したことになった。

(へえ、ホントにどうにかしちゃったね)

「言った通りだろ?俺は有限実行する男だからな」

俺はノアの言葉に軽く調子にのって答えた。

その時だった、空から何か巨大なものが落ちてくる気配があったのは。

俺は咄嗟にその場から飛び退き、それを回避した。

ドゴオオオオオオン!!

巨大な質量を持った何かが地面に激突し派手な土煙が上がった。

「新キャラご登場ってか…」

俺は土煙の向こうにいるそいつに向かって言った。

次第に土煙は晴れ、その中からは俺の身長のゆうに二倍はある青い鬼のような男が現れた。

「我は『影の八守護者』が一人ディザイア、我が主の命によりそなたを滅っしにきた。」

男はそう言うと俺と対峙した。

成る程、こいつもエクスシアと同じ使い魔か。

(フレイム)追跡者(ストーカー)!!」

俺がディザイアと対峙していると突然空から五つの炎の矢が降ってきた。

俺はスッテプを踏みそれら全てを避けると、矢は地面に突き刺さり爆炎となって消えていった。

「いきなり、空から攻撃っていうのは卑怯なんじゃない?」

俺は空からの攻撃者に向かって軽い口調で話した。

「ふん、お前ができる奴だと解ったからには、アタシもそれなりに本気をださせてもらうよ」

マナはそう言うと高度を下げ、ディザイアとは反対の位置で俺に対峙した。

(いきなりボスが二人相手だけど、どうする?)

「どうするって言われてもな…」

あのディザイアって奴がさっきの『魔道騎士』と比べものにならならい強さなのは、あいつの発するオーラから解るが、それとマナを同時に相手にするとなるとさすがにヤバイかも…

「苦戦しているようだな…」

「!」

俺がマナ達の対策法を考えていたその時、その男は突然現れた。

いや、その表現は間違っていたのかもしれない。なぜならその男はすでに俺の隣に当たり前のように立っていたからだ。

「あんたは?」

「俺の名は達人。時雨達人だ。苦戦しているようだなフィシス・A・フィンドーラ」

「なっ、何で俺の名を…」

俺が『知っているのか』と口しようとした時、突然若い少女の声が響いた。

「私が教えたからだよ。」

声のした方を振り向くとそこには髪をツインテールにまとめたあの占い屋の少女がいた。

「君は占い屋の…」

「自己紹介がまだだったね。私の名はリリア・フォルトゥナ。メザロリ教の『時見の聖女』

です。」

彼女はそう言うと俺と達人の間に立ち手に持っている柄の長いモーニングスターを構えた。

どうやら加勢をしてくれるらしい。

「くっ、やはり真央以外に女を作っておったのか貴様!」

マナが突然怒声を上げた。

女を作っていた?なんかどこぞの白いナマモノがやりそうな不名誉極まりない単語が出てきたんですけど。

「ちょっと待て!『やはり』って言うのはなんだ。まるで俺が他の所に女を作っているのが当たり前のような言い方だが…」

「しらばっくれるな!お前が真央以外の女とキ、キスしていたのを真央とアタシは見たんだぞ!」

は?俺が女の人とキスしてた?それっていつですか?全く身に覚えがないんですけど。

「とにかく、真央の純情を玩んだあんたをアタシは絶対に許さないんだから!」

もしかして、何か勝手に誤解されて俺は殺されかけているのか?

…今月の運勢最悪かも。

俺がそんな事を考えているとリリアが耳元で何か囁いてきた。

「私達はあの青鬼の相手をします。ですからフィシスさんは彼女を『古代遺跡』に誘い込んで下さい。」

「『古代遺跡』に?なんでそんな所に…」

「行けば解ります。」

「そこ!アタシ達を無視してイチャツクんじゃない!!」

マナはそう言うと俺に向かって斬りかかってきた。俺はその斬撃を避けると『古代遺跡』に向かって走っていった。

 

 

「お主らが我の相手をすると言うのか?片腹痛いわ!」

ディザイアはそう言うとその巨大な腕を達人に向かって振り下ろしてきた。

ドゴオオオオン!

盛大な破壊音が響き派手な土煙が上がる。が―

「安心しろ。直ぐにその痛みも感じなくさせてやる。」

ディザイアの攻撃を避けた達人は刀を抜き、ディザイアの体を斬りつけた!

「ぐおおお!?」

悲鳴を上げるディザイアにリリアが追い討ちをかける。

聖火(インスクリッド)!」

白い炎がディザイアを取り巻き炸裂した。しかし―

「成る程、お主ら人の身でありながら我が主と同等の力を持っているのか」

爆炎が晴れた後には無傷になっているディザイアの姿があった。

「うわ、あんな短時間で再生しちゃうなんて…どうするタッちゃん?」

「…再生ができなくなるまで破壊する。それだけだ。」

「ようするにまた力押しってこと?うう…なんか最近こんなのばかり…」

「つべこべ言うな。行くぞ!」

そしてディザイアと達人達の戦いは熾烈を極めていった。

 

 

それは巨大な建物であった。

長い年月を重ね、所々風化してはいたがそれ自身の放つ神秘性は決して衰えてなかった。

俺は走りながらそんな事を考えていた。

赤い(クリムゾン)悪夢(ナイトメア)!」

マナは右手に真っ赤な球体を出現させるとそれを俺に向かって投げてきた。

「うわっと!」

俺は体を反らしてそれを避ける。

目標を見失った球体はそのまま壁にぶつかり、反射してきた。

「なんだありゃ!」

(反射球(リバウンドボール)!?フィシスさん気を付けて、あれは反射すればするほどスピードの上がる魔法だよ!)

マジかよ、そんなもんこんな狭い所で撃ちやがって当たったらどうするつもりなんだ!

いや、当てるつもり何だろうけど。

俺は毒ずくと段々速くなってくるその球体を避けながら遺跡の奥に向かって走って行った。

そして三分ほどしたころか、俺は空けた空間にでた。

そこは幾らか崩れていたが戦うには問題のない場所だった。

ん?あの柱の所に書かれている文字は……成る程、そう言うことか。

「追い詰めたぞ!フィシス・A・フィンドーラ!」

振り返るとそこにはマナの姿があった。

「ここをお前の墓場にしてやる!」

「それはどうかな?」

「何?」

「『開放せよ、我は汝と等しき者!』」

俺が叫ぶと周りの柱が光だし近くにあるもの同士を光で結びだした。

「『絶対(アブソリュート)平等(エキュール)結界(フィールド)』!?」

マナがその存在に気付いた。

絶対(アブソリュート)平等(エキュール)結界(フィールド)−それは古代の人々が神に挑戦するために作り出した結界。その内部で神も悪魔も人も絶対的に等しい存在となり、恒常性効魔法領域の効果を無効化させる。つまり、ここでは俺もマナも同じ人となる訳だ。

「くっ、これが狙いだったのか。だが、このアタシにこの程度で勝つ事ができる思うなよ!」

「なあ、もうやめないか?」

俺の突然の意見にマナは驚きの表情をした。

「俺はあんたと殺し合いをするつもりはない、それに真央もあんたも何か誤解をしている。俺は真央を裏切るような真似をした覚えは無い。」

「何を白々しい!アタシ達は見たんだお前が占い屋であんたを助けにきた女とキスしていた所を!」

はあ?俺がリリアとキスをしていたって?そんなこと俺はしてな…………まさかアレの事を言っているのか?

「お前ら、俺がリリアとキスしてたって言うけどそれは完全な誤解だ。」

「嘘を言うな!アタシははっきりとこの目で見たんだお前とあの女の顔が次第に近づいていって…」

「あれは彼女達がやる『マティの儀式』って言う占いだって」

「嘘!キスでする占いなんて聞いたことがない!」

「だからしてないって言っているだろ!」

「黙れ!もうお前の言う事など聞かない!死ねえ!!!!」

マナはそう言って鎌を振り回した。しかしそれは今までのしっかりとした斬撃ではなく、ただひっちゃかめっちゃかに振り回しているだけだった。

ぐらっ

その時、マナの振り回していた鎌が柱の一つにぶつかり大きく揺れた。

そして、その柱がゆっくりとマナに向かって倒れていく…

マナは無我夢中で柱のことには気付いていない―

俺は無意識の内に駆け出していた。

「ぐう!」

俺はマナに飛びつくつくとそのまま転がって行った。

視界の隅で柱が倒れたのが見えた。

「アタシを…助けたのか……なぜ?」

マナが俺の腕の中で呟いた。

俺はその問いに正直に答えた。

「当たり…前だろ…人間だから…な、ぐはっ!」

俺は話の途中で口から血を吐いてしまった。どうにかマナの顔にかけずに済ませたもののやばかった。

「お前鎌が!」

マナが驚愕の声を上げた。

そう、マナを助ける時に彼女の鎌が俺の脇腹から入って背中に突き抜けてしまったのだ。

「なんでこんな無茶を…」

「うるせい…何度も同じ事いわせるな…」

マナの泣き出しそうな顔が見える。

(フィシスさん!大丈夫なんですか!)

ノアの心配する声が聞こえた。

「さあな…痛みが感じられねえから死ぬかもな…」

俺は正直な言葉を述べた。

どうやら運命ってやつのおもい道理になってしまったようだな…

「マナ…」

「なんだ?」

マナは涙ぐんだ声で答えた。泣いているのか?

「真央に…俺の言葉を届けて…くれるか?」

「なんだ、言ってみろ」

「さっきはごめんって…」

その言葉を言うのが精一杯だった。

そして意識は休息に闇に落ちていった。

「―――!」

マナが何か言っているが俺にはそれがなんと言っているか解らなかった。

しかし―

闇に消えようとする意識の中何か、暖かい温もりが俺を包み込んで行く感触だけが感じられた…

 

 

俺はまだ遺跡の中にいた。

「フィシスさん!」

顔を横に向けるとそこには真央の姿があった。

「真央?俺は死んだんじゃないのか?」

俺の問いに真央は微笑しながら答えた

「いいえ、マナがフィシスさんを死なせまいと助けてくれたんです。」

マナが?なんでまた急に…

ズキ!

ぐっ何だ頭がズキズキする。

俺はズキズキとする頭を押さえながら立ち上がると自分の体の異変に気付いた。

なんだ頭に変な感触が…

「マスター、これ。」

いつの間にか幼龍の姿に戻ったノアが鏡を差し出した。

手に取ってみるとそこには、髪の前頭部が白くなり、頭に小さな角が生えた色違いの瞳を持った少年がいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これって鏡だよな、とすると・・・・

「なんじゃこりゃああああ!!!!!」

俺の、俺の顔がなんかなってしまった!

俺がてんぱっていると真央が説明してくれた。

「えっと…あの…フィシスさんの体の損傷が激しかったので、マナが黄泉帰りの呪法で生き返らせたんですけど…その…そんなんになってしまいました。」

そんなんになってしまったて…

一応礼を言っとくべきなのか?けどどっちに?

……

「真央、えーとありがとうってマナに伝えといてくれ。それから…」

俺は一旦言葉を切った後ハッキリと真央に告げた。

「不安にさせちまってごめん!」

俺は頭を思いっきり下げ彼女を不安にさせてしまった事を誤った。

「そんな、私だってフィシスさんのことを信じられなくて…ごめんなさい」

そう言って真央も頭を下げた。

「いや、俺の方こそ…」

「いいえ、私が…」

「俺が!」

「私が!」

「・・・・・・・・・・・・・・ぷっ」

互いに謝りあっている内にどちらからとも無く笑い出してしまった。

こうして俺達の誤解から生じた喧嘩は終わり。

俺は人間から悪魔になった。

 

今回の征服率

0%

破壊率

3%位

GETアイテム

龍具ノア

白いナマモノ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上

 

『壮絶アゴヒゲアザラシVSボブ・サットゥ』に続け!

 

 

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